ストリートチームという言葉があります。日本ではあまり聞きませんが、海外の音楽業界では、以前から普通に使われている言葉です。簡単に言うと、CDが出る前に、あるいはツアーの前に、特定の地域で、テレビやラジオにリクエストの電話をかけたり、レコード店にポスターを貼りに行ったり、路上でチラシを配ったりする人達のことです。

レコード会社やレーベルの場合、お金を払ってストリートチームを雇います。ストリートマーケッターなどと呼ばれる、それを仲介するビジネスもあります。

日本語には適当な訳語がないのですが、草の根マーケティングとか、口コミマーケティングとか、そういう言い方に近いかも知れません。

しかし、インディがストリートチームを利用する場合、お金を払って雇う必要はありません。もっとも日本でストリートマーケッターを探しても見つからないでしょう。無理して探せば、実は音楽なんかに興味のない、言うことだけはでかい広告代理店に大枚払って、通り一遍で効果の低いプロモーションを押し付けられるのが落ちです。

インディのストリートチームは、ファンパワーです。ファンは、好きなバンドの音楽を聴いているだけではありません。普段から、友達にCDを薦めたり、ラジオにリクエストしてくれたりしています。つまり、ファンは、意識してか無意識か、バンドの音楽が普及し、さらにCDが売れることを、助けてくれています。これをファンパワーと呼ぶのです。

こうした普段のファンの行動を、もうちょっと組織的に、一定の方向性を持ってコントロールするのが、インディのストリートチームです。

とは言え、ライブでお客さんに「明日、学校で宣伝してくれよ」と漠然と呼びかけるのはストリートチームとは言いません。「チーム」というぐらいで、ある種のグループでなければなりません。

ライブに定期的に来てくれる顔なじみや、ライブの後にサインを求めてくる人、ホームページからメーリングリストに参加してくれた人や、メールで助言を送ってくれる人 —— そんな積極的なファン達を集めてグループ化すれば立派なストリートチームです。ライブの後で、ホームページで、機会を捉えて、ファンと接触してストリートチームに入ってくれるように頼みます。集まったストリートチームは、地域や年齢層でサブグループに分けておきます。これは、的確なマーケティングを行うための準備です。

ストリートチームを秘密にする必要はありません。どうどうと「僕らを手伝ってくれるチームがあり、そのメンバーはいつも募集しています」と発表してください。ファンに「チームに入りたい」と思わせてください。ファンの間で選良主義のようなものを生み出さない程度に、チームに対するあこがれを持たせるのはいいことです。例えば、インスタントメッセージのグループを作って、バンドも含め、メンバー同士はメッセージをやり取りできるようにします。これにより、そのグループに入ってバンドと直接メッセージをやり取りできることが、一つのステータスになります。

ストリートチームが構成されても、やはり漠然と「宣伝してください」などとお願いしてはいけません。何をして欲しいか、何が必要か、その方向性は明確にします。例えば、「もうすぐCDが出るので、その宣伝をして欲しい」とか「もうすぐ地元でライブがあるので、その前に盛り上げておいて欲しい」などです。10代のファンがいれば、「サンプルCDを送るから友達に聴かせて欲しい」とかも可能です。

念のため書いておきますが、ストリートチームがファンであり、バンドとの関係は対等であることを忘れてはいけません。ストリートチームに命令してはいけません。「レコード店に言って、ポスターを貼ってもらって欲しい」とか、具体的に指示すれば、それはほとんど命令と同じです。命令されれば、それは仕事です。仕事を頼むなら、対価を払うのが普通です。でも、インディのストリーチームは自発的なファンパワーが基盤ですから、一方的にファンパワーを利用するような関係を築けば、期待はずれな結果に終わるでしょう。

ポスターは用意します(デジタルでも構いません)。サンプルCDは用意します(ダウンロードしてもらってもいいでしょう)。詳細なライブスケジュールもホームページで公開します(メールで送ってもいいでしょう)。ストリートチームには何でも提供して、後は、ファンパワーに任せましょう。ファンの創造性やアイデアに任せるのです。

大事なことが一つあります。フィードバックです。ストリートチームに、宣伝だけ頼んで、あとは知らんぷりではいけません。ストリートチームが、何をしたのか、フィードバックをもらい、それに対して、またバンドからもフィードバックします。ラジオ局にリクエストするとか、レコード店にサンプルCD-Rを置くとか、意見やアイデアを交換したり、助言をもらったり、問題があればクリアにして解決して行きます。ストリートチームをバンドの一員のように扱い、共に考え、共に行動して行くという雰囲気がなければ、ストリートチームは長続きしません。できれば、同じ地域のメンバーを集めて、時々親睦会など行うのもいいことです。

ストリートチームは、宣伝を助けてくれるだけではありません。例えば、ライブの際に受付を頼むことができます。物販のために売り子になってもらうこともできます。いいライブハウスを紹介してくれたり、レコード店とインストアライブの交渉もしてくれるかも知れません。ローディとなって、ライブ会場に機材を運び込むのを手伝ってくれるかも知れません。言うなれば、各地域のマネージャみたいな感じです。

ストリートチームとバンドの関係は対等であり、その基盤は自発的なファンパワーであることはすでに書きました。ストリートチームは対価を要求しないはずです。逆に言えば、対価を要求するようなメンバーは、チームから排除するべきです。でも、だからと言って、何も得られなければ、ストリートチームだってモチベーションを失って行きます。そこで、チームのTシャツとかレア音源CD-Rとか、何か、チームの活動に報いるものを用意しましょう。決して対価ではありません。感謝の意味で贈るのです。

ストリートチームの可能性は無限です。それはファンパワーが無限だからです。海外からCDについての問い合わせが来たら、「無料で5枚送るから、4枚は配るなり、売るなりして宣伝して欲しい」とか「君の国でライブすることがあれば、ストリートチームとして手伝ってくれないか?」とか、コミュニケートしてみるのです。何が起こるか分からない時代です。世界中のファンパワーが、思わぬ結果をもたらすかも知れませんよ。

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