アルバムを録音し、iTunes Storeなどのデジタル販売サービスで販売開始しても、インディの仕事は終わりません。iTunes Storeに限らず、デジタル販売では、数十万から百万曲以上の楽曲が同じカタログに並んでいますので、何もしなければ、曲は埋もれたまま日の目を見ないで終わってしまうでしょう。

これまでのような、自分のホームページでの宣伝や掲示板へのゲリラ的書き込み、チラシへのストアURLの印刷などもいいですが、それでは全世界で誰でも、24時間購入できるというデジタル販売サービスのメリットが生かせません。特に、海外のiTunes Storeでの販売を考えると、前述したやり方では全く効果がないでしょう。

デジタル販売サービスに限らず、インターネットの世界では、新製品の露出の鍵の一つに「検索対策」というものがあります。インターネット自体が膨大な情報の集まりであり、多くの情報は埋もれてしまう傾向にあります。しかし検索という方法によって、誰も訪れたことがないようなホームページでも、見出され、何かの拍子にブレークすることがあり得ます。ホームページにキーワードを埋め込んだり、他のホームページと相互にリンクし合ったりするのも、検索対策の一種です。姑息なやり方ですが、ホームページの内容とは無関係なのに、人気の高いキーワードをページ上にちりばめておくといった方法もあります(最近の検索サイトは賢いので、こういうやり方も効果が薄れて来ていますが)。

同じ考え方を音楽のオンラインストアにも導入するのが、iTunes時代のデジタル販売対策と言えるでしょう(YouTubeにおける検索対策についても、
インディプロファイルの項で少し触れています)。

まず、アルバムに有名曲のカバーソングを入れておきます。例えば、iTunes Storeでは、トップページに表示されていないアルバムや楽曲を表示するには、曲名かアーチスト名を検索するのが当たり前となっています。ジャンルから入って、徐々に絞り込んでいくという使い方はあまりポピュラーではありません。そこで、人気のある曲のカバーソングをアルバムに忍ばせておきます。エルビスプレスリーのLove Me Tenderなんかどうでしょう?実際に「Love Me Tender」を検索すると、プレスリー以外にずらっとカバーソングも一覧されます。これでインディがカバーしたLove Me Tenderも、「露出した」ことになります。

多くの確率で、プレスリーのLove Me Tenderが購入されるでしょうが、Love Me Tenderという曲自体が好きなら、そのバリエーションにも興味を持つリスナーも多いと考えられます。ジャズ風、キッズソング風、テクノ風、クラシック風、など、オリジナルと全く違う曲調のカバーが試聴の末に買われていく可能性も高くあるわけです。

しかし、検索結果として表示される、ということを第一義の目的にしてはいけません。Love Me Tenderを検索する人は、まずプレスリーが好きでしょうし、ロカビリーとか、オールディーズが好きでしょう。であれば、パンクバンドがカバーしたLove Me Tenderなんて、試聴して数秒で次のカバーソングに移られるのが落ちです。

さらに言えば、このLove Me Tenderは、自分たちのアルバムを試聴してもらうための撒き餌であることを忘れてはいけません。カバーソングを聴いて、「おっ、いいじゃないか。こいつらは他にどんな曲をやってるのかな?」と思わせて初めて目的が達せられるのです。ですから、必ず、自分たちが演奏しているジャンルの延長線上にある有名曲をカバーしてください。

また逆にマニアックな曲をカバーするというやり方もあります。マニアックなジャンルやアーティストの楽曲は、似たものが市場に多く出回っていません。そのため、ファンは新しい曲との出会いに飢えています。検索されると、その結果、気に入って購入される可能性が高いのです。例えば、Love Me Tenderで言えば、検索すると、300曲近くも一覧されます。その中の一曲として表示されても、試聴される可能性は低くなります。

一方、「Love Will Tear Us Apart」なら、一覧されるのは40曲です。オリジナルのJoy Divisionのトラックがかなり重複表示されているので、実際の曲数はもっと少ないと言えます。またJoy Divisionのようにすでに解散しているのに、熱烈なファンがいるバンドの場合、新曲を聴くことができないため、良いカバーソングなら興味を持つ確率はさらに高まるのです。

ところで、カバーソングと言われると、著作権の処理が面倒だと二の足を踏むインディも多いでしょう。しかし、CDを販売せず、デジタル販売のみであれば、さほど面倒はありません。例えば、iTunes Store Japanでは、JASRACに信託されている曲は、iTunes JapanがJASRACに著作権使用料を払ってくれるのでインディが特にすることはありません。海外のiTunes Storeは使用料の処理がまちまちですが、とりあえずiTunes Store Japan向けのアルバムにだけカバーソングを入れて試してみるのも良いでしょう。

外国の曲や海外のiTunes Storeについて、不明な点が多くて、処理が面倒だということなら、もう一つ裏技的な方法があります。それは、タイトルを一ひねりするということです。

デジタル販売では、検索でヒットすることが重要だと書きました。その結果、検索を行ったリスナーが気に入りそうな曲が一覧に入っていれば、その曲が売れる可能性もあるし、さらに他の曲にも興味を広げてくれる可能性があるからです。

であれば、検索結果に表示されれば、何もカバーソングでなくてもいいんです。例えば、世の中には同じタイトルで全く別の曲は多く存在します。Love Me Tenderというオリジナル曲を発表しても問題ありません。するとLove Me Tenderで検索したら、そのオリジナル曲が一覧に表示されます。問題は、その曲が、プレスリーファンのお眼鏡にかなうか、ということです。同じタイトルを使っているため、反感を買うリスクもあります。ここまで有名な曲だと、許されるのはパロディの場合だけでしょう。

でも、I Love Elvis Presleyというタイトルならどうでしょう?Elvis Presleyを検索したとき、一覧に表示されます。しかもその内容がいかにプレスリーが好きか、ということを歌ったオールディーズ風の歌なら、プレスリーファンも興味を持つかもしれません。iTunes StoreでElvis Presleyを検索すると1,000項目程度表示されますが、ほとんどはプレスリー自身の曲です。すると、毛色の変わったI Love Elvis Presleyが表示されたら、目を引くのではないでしょうか?ちなみにU2のElvis Presley & Americaも表示されます。U2の抜け目のない戦略でしょうか :)

この方法のバリエーションとしては、Song For Bob DylanやYes, U2(「うん、君もね」の意味)など、色々考えられます。重要なのは、やはり検索したリスナーが興味を持ちそうな曲であるということです。だからSong For Bob Dylanなら、メッセージのあるフォークロックとか、I Saw Pink Moonならギター一本の叙情派フォークとか、そんな一貫性が必要です。

この検索対策というのは、タイトルだけで有効なわけではありません。多くのオンラインストアでは、アーティスト毎にページを設けたりしていますが、そこに簡単なバンドの紹介を記載できます。そこに「俺たちは最高」などと書くのでなく、「僕らは、Jaco Pastoriusが生きていたら、こんな感じの音楽をやっていたんじゃないかと思えるような、カリビアンビッグバンドです」とか「Herbie HancockのFuture Shockにインスパイアされた、ブレードランナー的な過激な近未来的サイバーパンクジャズを目指しています」など、検索キーワードになりそうな文言をちりばめていくのも有効です。これで、「Jaco Pastorius」、「Herbie Hancock」、「ブレードランナー」、「サイバーパンク」などのキーワード検索に引っかかります。繰り返しますが、自分たちの音楽と全く無関係なキーワードを埋め込んではいけません。

これらのテクニックを使うかどうかで、露出の割合は格段に違います。ちょっとしたアイデアとちょっとした作業で実現できますから、ぜひお試しください。

くれぐれも、狙い過ぎて逆効果にならないようにご注意を。