SHM-CDを試す

Indie Revolutionでは、通常のCDと異なる液晶パネル用ポリカーボネート素材を使うことで、音質が向上するとされるSHM-CD(Super HIgh Material CD)が発表された時から注目してきた。それは、このような素材がCD-Rにも使用できるようになれば、高音質な音源を希望するリスナー向けに、インディがCDを作り続ける意味が出てくると考えたからだ。

ユニバーサルミュージックでは、誰もが簡単にその効果を体験できるように、「これがSHM-CDだ! ロック/ソウル/ブルースで聞き比べる体験サンプラー」、「これがSHM-CDだ! ジャズで聞き比べる体験サンプラー」、そして「これがSHM-CDだ! クラシックで聞き比べる体験サンプラー」という3枚のサンプラーを各1,000円で発売している。このCDは通常版とSHM-CD版の2枚組構成で、様々なアーティストの曲をコンピレーション方式で収録してある。この2枚を同じ環境で聞き比べて、その違いを身を以て体験してほしい、というわけだ。実は、今年の5月にも「これがSHM-CDだ! ロックで聞き比べる体験サンプラー」を同じく1,000円で発売しているが、その時は、すぐに売り切れたそうで、SHM-CDの注目度の高さが分かる。

しかし素材を変えただけで、本当に音質が向上するのだろうか? 実際、インターネット上をSHM-CDで検索すると、「確かに高音質」、「音は違うが高音質とは言えない」、「全く変わらない」、など、様々な感想や意見が書かれていて、万人がその効果を認めているわけではないことが分かる。また多くの人が色々な実験や分析を行っていて、記録されているデジタルデータはビット単位で同じことが分かっている。

なお、「SHM-CDは、通常版とマスターが違う」とか「SHM-CDは、通常版とスタンパーが違う」などと書かれていることがあるが、それは嘘、あるいは不確かな噂であり、メーカーもその辺を意識しているのか、今回のサンプラーの雑誌広告などでは「同じスタンパーを使っている」と明記している。同じスタンパーを使っている以上、違う音が鳴れば、それは素材の差ということになる。

まず「これがSHM-CDだ! ロック/ソウル/ブルースで聞き比べる体験サンプラー」を聴き比べてみたが、何となく音が違うように思えるが、確信が持てない。思い込みを考慮して判断すれば、「同じ」と言わざるを得ない感じだ。ところが、次に「これがSHM-CDだ! ジャズで聞き比べる体験サンプラー」を聴き比べてみると、明らかに音が違う。SHM-CDの方が空気感というのか、音に奥行きと臨場感があり、よりナチュラルでアコースティックな感じがする。CDというよりアナログレコードに近い感じだ。

と言っても、耳で聞いている限りそれは主観以外の何ものでもない。そこで通常版とSHM-CD版を同じパソコンで再生し、その音声出力がスピーカから出力される直前で横取りしてソフトウェア的に録音してみた。その波形データを比べてみると、確かにところどころ微妙に違っている。

単純に言えば、波形データに違いあるというのは、音量に違いがあるということだ。波形が所々違うということは、楽曲の特定の場所でなっている楽器の音量が違っていると考えられる。波形データをつぶさに分析すれば、どの楽器で音量が違っているのか分かるだろう。そこから特定の周波数を持つ楽器の音量が引き上げられた(あるいはその逆)ことも分かり、結果、SHM-CDが持つある種の再生特性も知ることができるはずだ。

しかし、そこまでやる時間がないので、手っ取り早く波形データをスペクトラム分析してみると、どうも中音域では厚みが増しているが、極端な低音と高音は薄くなっているように感じられる。もっと徹底的に調べてみたいが、とりあえずはSHM-CDは通常のCDと音が違うということが分かったのでここまでにしておく。

なお
CD-Rの説明でも書いたが、もともとCDは素材を変えれば音が変わることはよく知られており、当たり前のことだから、SHM-CDと通常のCDの音が違うからと言って、即SHM-CDの方が高音質ということにはならない。そこで、難しいのではあるが、耳で聞いた感じから、SHM-CDの特徴を説明してみよう。

前述の通り、「これがSHM-CDだ! ジャズで聞き比べる体験サンプラー」を聴いてみると、空気感というか臨場感が通常版より高まっているように思える。誤解を恐れずに書けば、ホワイトノイズのような雑音が増えたような気がするのだ。

宅録をやっているアーティストなら、マスタリングの際に、中音域の周波数帯にあるノイズを嫌って中音域を下げると音が痩せていく、という現象を経験していることだろう。かといって、中音域を上げていくとノイズが増加する。あるいはデジタルレコーダを複数使っているアーティストなら、R-09HRはクリアな音で録音されるが、MR-1だと全体にざわざわしたノイズまで拾って録音してしまう、という感覚を知っているだろう。しかしその臨場感では、MR-1の方が圧倒的に上だ。あるいはギタリストなら、アンプのボリュームを最大にするとノイズが乗り始めるが、その状態でギター側のボリュームとトーンを調整することで、より厚みのある暖かい音を出すテクニックについて読んだり、聞いたり、実際に実践したりしていることだろう。SHM-CDの音もそんな感じのノイズが乗っており、それがナチュラルでリアルな雰囲気を生み出している。

これはジャズやクラシックなどアコースティック系のアーティストにとって重要な事実だろう。なぜ「これがSHM-CDだ! ロック/ソウル/ブルースで聞き比べる体験サンプラー」では、この感じがしないのか、ということは、想像するしかないが、ロックなどでは元々の音源に「空気感」というものが定着されていないものと思われる。これは録音方式やマスタリングの方向性にも関係しているのだろう。仮に小さなライブハウスで簡単な設備と機材で録音したような音源ならば、ロックであってもジャズと似た結果になっていたのかも知れない。

なおSHM-CDの話をすると、「明らかにCDより高音質のSA-CDやDVD-Audioがあるではないか」と言う人がいるが、それは全く違う話だ。SHM-CDは、普通のCDプレイヤで再生できる点こそが重要であり、SA-CDやDVD-Audioと比較することに意味はない。

SHM-CDがそれなりにCDの音質を向上させてくれるのだとして、問題は、インディがそれを自由に使えるようになるか、ということだが、今のところCD-Rに採用されるという話は聞いたことがない。なお、SHM-CDの対抗馬として
HQ-CDというものも登場している。近い将来、このどちらかがCD-Rで流通するようになることに期待したい。